映画『永い言い訳』(西川美和)
『永い言い訳』を見た。
映画は衣笠幸夫(本木雅弘)が自宅で散髪をされているシーンから始まる。
切っているのは妻・夏子(深津絵里)。
テレビで流れているクイズ番組で、衣笠が鵺についての講釈を垂れている。
鵺は名を広く知られているにもかかわらず外見や行動などが謎に包まれている妖怪。
テレビに出ている幸夫の姿から、彼が国内で知名度の高い有名人であることがわかる。
幸夫自身も、本名が衣笠祥雄と同音であることがコンプレックスだった。
それを隠すため津村啓というペンネームを使っていた。
彼の本名は世間には知られていない。
幸夫と夏子の会話。美容師を外から招いて切ってもらっているのかと思うくらい淡白。
先生、奥さん亡くなってから、ちゃんと泣きましたか。
一度でも。
―岸本(池松壮亮)
死んだ妻の友人の夫・大宮陽一(竹原ピストル)と幸夫との対比がよい。
朗らかな陽一、暗い幸夫。
子どもがいる陽一、いない幸夫。
夜勤のトラック運転手の陽一、家でパソコンに向かう作家の幸夫。
教養のない陽一、教養のある幸夫。
愛される陽一、愛されない幸夫。
もう愛してない。
ひとかけらも。
―幸夫が夏子に送ったメール
幸夫は陽一をフランス料理店に連れていく。
高そうなワインをうまそうに飲み干す陽一。ここでもフランス料理の知識をひけらかす幸夫。
それを食べた陽一の娘・灯(白鳥玉季)がアナフィラキシーショックを起こす。
急いで娘を担いで病院へ向かう陽一。
何もできない幸夫。しっかりしている陽一の息子・真平(藤田健心)。
真平は本当にめちゃくちゃしっかりしている。それは父を反面教師にしているから。
子ども科学館の学芸員・鏑木(山田真歩)が、いつの間にか陽一とくっついている。
鏑木はなぜか吃音。
いつの間にかくっついているのにも、幸夫は気付かない。
いつの間にかくっついているのを目の当たりにして、あたたかい家庭がそこにあって、自分が除け者のようになって、情けなくなって、楽しいパーティの席で八つ当たりしてしまう。
死んだ妻を忘れられず、子どもみたいに傍若無人に振る舞っているのは幸夫のほうだった。
妻に切ってもらってから伸ばしっぱなしの髪がそれを物語っていた。
幸夫は鵺だった。
幸夫「俺が鵺の薀蓄語ってるのをバカにしてるんだろ」
夏子「そんなことないよ。私、鵺のこと知らなかったもん」
先生は私のことを抱いてるんじゃない。
誰のことも抱いてないですよ。
―福永(黒木華)
あとはたびたび登場する劇中アニメの『ちゃぷちゃぷローリー』。
オープニングテーマのゆるゆる感が、映画に緩急を与える。
なんで結婚してないの?
幸夫くんはなんで結婚してないの?
―灯(白鳥玉季)
泣いたこと、お父さんには言わないでほしい。
―真平(藤田健心)
初めて会ったのに、
真平のヤツ、そんなこと言ったんですか。
―陽一(竹原ピストル)
着るにも食うにも困ってのたうち回ってよ、
思い通りか?ざまあねえなと言いたいか?
―幸夫(本木雅弘)